地域診断のノウハウ
どうも、なにかとアドバイスがしたい阿佐田です!
今回は地域診断の進め方について、悩める保健師学生向けに個人的なノウハウを書きました。時間がない人は太文字だけ読んでください。
学校の講師は抽象的な理論ばかりで実践的な方法はあまり説明してくれないし、わかりやすい参考書はないし、地域診断のやり方や進め方が全くわからなくて困っている!という方に向けて書きました。内容は主に教科書的なものではなく、記録を書く際の実践的な取り組み方についてです。
まず、保健師の地域診断とは、歴史や地理的条件、施策、現状の住民のデータなどから地域の特徴を分析し、その地域の健康課題を考え、保健師(もしくは保健事業)として、住民のよりよい生活のために何ができるか検討することだと私は考えます。
それでは、地域診断を行う際に必ず地区踏査をすると思いますが、地区踏査ってなんのために行うかご存知ですか?私は正直、街を歩いて、見聞きした情報って分析に役に立つのか疑問に思っていました。なぜなら、地区踏査で得た情報は主観的情報なので、分析の根拠としてはどう考えても不十分です。
鵜飼修の「地域診断法」によると
”その地域に入る前、あるいは実際にその土地に立ったときに、直感的に自分の中でイメージできる何かがなければならない”
”診断の方向性を見極めることによって、集めなければいけない情報の種類や内容の輪郭が見えてきます。”
”私が「直感」と言ったのは、別の言葉に言い換えれば「ゴールを見すえる判断力」ということです。”とあります。
実は地区踏査とは、地域診断の方向性を直感的に考えるために行うのです。そもそも地域診断には、明確なゴールがありません。どんな結論にたどり着いていいのか全くイメージできないまま、膨大なデータをただかき集めても、なかなかゴールにたどりつけません。
例えば、ここの地域は私だったらあんまり住みたくないな。なんでだろう?若者向けの買い物するところが駅前にないし、交通の便が悪いし……。でも、高齢者の施設はたくさんあって、高齢者は住みやすいだろうな。でも子ども連れの世帯は、遊ばせるところがあまりないし、道路も狭いから安心して子育てしにくいかな?
このように、地区踏査で数値などのデータだけではわからない情報を得ることで、地域診断の方向性を見定めることが重要なのです。そのため、地区踏査ではたくさんの観察項目をただ見ればいいというものではなく、他の地域と比べてどのような特徴があるか感じ取る必要があります。
それでは、前置きが長くなりましたが、地域診断の個人的なノウハウについて具体的に説明していきたいと思います!
<データ収集の心得>
①データが見つからない時は、いつ行われている統計か確認する
(必ずしも全ての統計が毎年集計されている訳ではない)
例えば、人口動態統計(出生、死亡、婚姻、離婚)は毎年調査するので、その年のデータを探す必要があります。
一方で、人口静態統計の国勢調査は5年ごとであり、平成22年、平成27年……と実施される年が決まっているため、平成25年や平成28年などのデータはないので、探しても無駄な骨折りになるので注意しましょう。
②見つかりにくいデータは時間をかけて探さない(SMRや65歳健康寿命など)
←市町村が独自で出すデータは見つかりにくく、最新のものでも数年前のものであることも多いため、無理に深追いせず、あるデータで分析する方が効率的です。
③参考資料を整理しておく
※データをフォルダ分けすることを推奨
※データは出典と統計が何年のものかを必ずわかるようにしておく
例:平成何年、全国か市か、~統計白書よりなど
※私の学校の記録用紙の枠内にグラフなど多くのデータを入れにくかったため
記録のデータの記載は最新の年度の市と全国のデータのみ簡潔に書き、年次推移や割合などの詳細は別紙の資料を参照としました。
<参考資料>
地域の概要や地域の環境特性
①公式の市のHPから位置、面積、歴史、主な産業、主な施設などの情報あり
②市の「都市計画」や「みどりの基本計画(市町村の緑化の計画)」
市の概要やまちづくりの課題に自然、土地の特徴、交通、産業など専門的な分析があり、わかりやすい
コアとなる人々(人口や保健分野など)
①データのみ…公式の市のHPや「eスタット」、市の「統計白書」
②データと分析…市の「保健事業実施計画」や「データヘルス計画」「総合計画」
※すでにおおまかな分析があり、既存の施策の方向性がわかる
※市の分析だけでなく、全国や県とのデータ比較があることが多い、データの出典も書いてある
(個人的にオススメの小技)
※このような参考資料のデータでは、EXCELであれば簡単に切り貼りできますが、PDFはできなくでお困りの方へ!
PDFの資料はAdobe Acrobat Readerというフリーソフトで
編集から「スナップショット」で切り取り、そのまま「貼り付け」で使えるのでオススメです!
<分析の書き方>
①市の現状、傾向を書く(その年のデータ、年次推移)
例:年々上昇傾向にある、特に~の割合が多い傾向がある
※現状やデータの傾向は「~と考える」ではなく「~である」と断定してよい
②全国、県、類似する市(比較対象)との比較を書く
※すべてと比べる必要はない
※個人的にはすぐにデータが出てくるため、主に全国のみと比較した
比較対象が多いとその分、分析が多くなる…
※ただし、全国や県と比較できるのは「割合」のみであり
「実数」は人口が近いなど類似する市でなければ比較できない
例:・出生率、高齢化率などの「割合」
←全国や県と比較できる
・結核新規登録数、病床数などの「実数」
←全国や県と比較しても多いか少ないかわからない
そのため、全人口に対する割合を計算して比較するか
人口や地理的条件が近い市と比較する必要がある(さいたま市と千葉市など)
③市と比較対象との違いから、なにがわかるか分析する
例:A市は全国に比べ、出生率は高く、合計特殊出生率は低い←なぜ??
⇒総人口あたりの出産数は多いが、比較的15~49歳の出産可能と推測される女性が人口に対して多く、母親一人当たりの出産は少ないと考える
※~率や~割合など、どのような式から導きだされた割合か考えるとわかりやすい←「国民衛生の動向」に式あり
※因果関係を安易に断定しない!基本は「~と考える」
例:~が一因であると考える
~の可能性があると考える
~に関係していると推測する
④今後の課題
例:子育てしやすい環境づくりを重点的に取り組む必要があると考える
~年代の特定検診を促す働きかけを強化する必要があると考える
介護予防をより充実させることが期待されるなど
※保健所の保健師としてなにができるか、今まで行っていた保健事業の中でも
今後どの対策を強化・充実するかが重要!
※全ての項目に今後の課題を書かなくてよいが、保健分野の項目には必ず書いた方がよいと思います
⑤今まで分析した情報を統合させる
例:市の特徴として、戦後より首都圏の住宅需要の受け皿として発展してきたため、人口流入が多く、少子高齢化が進んでいるものの、人口は増加していると考える
(地域の歴史の特徴+人口の傾向→人口増加の分析)
<具体例>
母子保健について
A市の出生率は、平成28年に人口千対で~であり、年々増加傾向にあり、全国を上回って推移している。また、A市の合計特殊出生率は平成28年に~であり、年々増加傾向にあるが、全国を下回っている。
↑ここまでが、①A市の現状、傾向と②全国(比較対象)との比較
全国に比べ、出生率は高く、合計特殊出生率は低いことから、A市には比較的15~49歳の出産可能と推測される女性が多く、総人口あたりの出産数は多いが、母親一人当たりの出産は少ないと考える。
↑③市と比較対象との違いから、なにがわかるか分析する
そのため、出産・子育てをしやすい環境づくりをしていくことで、少子化の改善が期待できると考える。
↑④今後の課題(保健所の保健師としてなにができるか)
※記録には必ずデータの出典を記載する
<追記>
産業や経済を分析する際に、面白いサイトを見つけました!RESAS(リーサス)という、地域経済分析システムだそうです。ちょっと胡散臭いなと思ったのですが、内閣府が作ったシステムでしたw
<最後に>
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
出典の書き方や記録の形式は各学校ごとに違うのではないかと思い、具体的には記載しませんでした。気になる点や感想、御意見等ございましたら、コメントを頂けると幸いです。
本当に地域診断の資料集めや分析って大変ですよね……
少しでも悩める保健師学生のお役に立てますように~